架空の杜

The journey is the reward.

君に届け ルサンチマンを慰撫する物語

君に届け 10 (マーガレットコミックス)

君に届け 10 (マーガレットコミックス)

アニメが望外に面白かったので原作を読んだ。最新巻になる10巻が何かしら溜飲の下がるという少女漫画には相応しくない痛快感があったので、その構造を考察してみたい。

爽子という記号

爽子は絵的には美人に描かれているが、物語的には美人という扱いになっていない。これが漫画という手法の面白いところで、この亀裂がこの作品のポイントだと思う。ただし爽子が間違いなく綺麗なのは「心」で、虐めに近い扱いを受けながらも挫けたりしない。その綺麗さを一番知っているのがイケメン風早という構図である。この作品は爽子が心根の美しさで周囲を陥落させていく物語である(意地悪な言い方かな)。まず、千鶴とあやねという親友を得て、10巻に至って風早とも相思相愛になる。

大ヒット作となる理由

女性は誰もが皆、自分が美人だとは思っているわけではないが、誰もが自分の心は綺麗だとは思っている。男性だって誰もが自分をイケメンだとは思っていないが、自分の心根はそんなに腐っていないと思っている。独断でいえば女性の方がより己の心象風景だけは綺麗だと思っているはずだ。「君に届け」は女性が共有する「容姿は美しくないかもしれないが、私の心は綺麗だ、汚れていない」という願望を映し出す鏡のような作品だ。
そして、ヒーローである風早にだけは、爽子の美しさが見える。彼は爽子との邂逅で彼女に一目惚れしているのである。

ルサンチマン

ルサンチマンとは弱者の想像上の復讐である。読者はこの作品を通じて現実にささやかな意趣返しをしているのだ。作品として非常に良くできていると思うし名作だと思うけど、ちょっとあざとい作品であることも確かである。