架空の杜

The journey is the reward.

才能が花開くには・・・大塚利恵の挫折

東京

東京


かって大塚利恵というシンガーソングライターを応援していた。初めて邦楽の女性アーティストの才能に惚れ込んだこともあって、必要以上に心酔していた。彼女は高校時代にソニーと専属契約を結ぶなど早熟型の天才だった。容姿はひいき目に見ても平々凡々だから、プロから見ても輝く才能があったということだろう。

恵まれたデビュー

契約が早かった割にデビューが22歳になった理由はわからない。しかし、アニメの主題歌をあてがわれ、新人歌手としては異例のラジオのレギュラーを持たせてもらったことからも、ソニー傘下のアンティノスというメジャーレーベルが彼女に大きな期待をしていたことは間違いない。デビューアルバムは瑕疵もなく名曲揃いだった。しかし、商業的な成功は得られなかった。少し知性が勝ちすぎた作詞・作曲が大衆に受け入れられなかったのか・・・。

謙虚さの忘却

恵まれた環境に感謝することを忘れたのか、アニメの主題歌を唄わされたのが不満だったのか、当時の情報を拾っていくと彼女の傲慢さが垣間見られる。ラジオの内容もリスナーを無視して友人と電話で世間話をするようなことすらあった。

セカンドアルバムで意趣返しをするという愚行

セカンドアルバム「東京」は、極めて不自然な沈黙の後に発売された。マーケティングのセオリーからいえばデビュー時に投入した宣伝費を回収するためには二枚目は早めに市場に出すのが正しい。不必要に時間が空いたのは、明らかに大塚とアンティノスの間に確執があったことの証左である。そして、デビュー当時の大プッシュが嘘のようにおざなりなプロモーションであった。確執があったなら当然の帰結である。このアルバムの隠蔽された創作モチベーションの一つに「アンティノスへの意趣返し」があったのは間違いない(断言できる)。顕著なのが露骨な性の隠喩を埋め込んだ「くちびる」という曲だ。一枚目で純粋無垢な少女を演じた女性アーティストが、二枚目で赤裸々な性を唄うのは、ダメだとはいわないまでもファンが何を望んでいるかを考慮した結果とは、とても思えない。

くちびる

恋しい思いを伝えるまでは いつまでたっても姿を見せないの
裸になって赤らんだ顔で震えながら歪んだ唇
(中略)
「不安なときは唇に触って
心地よい場所に簡単に行けるよ」
めまいがするわ

もう一曲あからさまな意趣返しソングがある

花模様

純粋と言われることが
何よりも嫌だったのよ
無理矢理笑おうとすると
勝手に膝が震えた

ファンに対する視線の欠如

間違った方向に矛先を向けた曲を書いたことに反省がなく(今も気づいていない)そういった器の小ささが才能をスポイルしたと私は考える。セカンドアルバムが出た当時、豹変した作風に戸惑ったファンの怨嗟の声をネットでよく目にした。ファンの期待に応えたパフォーマンスをするという発想が全くなかったようだ。もちろんよい意味でファンの期待を裏切るのは大いに結構だが、ルサンチマンを創作のモチベーションにするのはファン不在も甚だしく、スタッフの心証も害したはずだ。ショービジネスで成功できなかったのは当然の結末だった。

とはいえセカンドアルバムは名盤

意趣返し的な部分があったとしても、一枚目の良さの残滓は色濃く残っていたし、プロになってから創られた曲で占められているので作曲技法も作詞技法も進歩している。特筆すべきは屈指のインテリジェンスをもつリトルクリーチャーズ鈴木正人による神業プロデュースだろう。特にアルバムのタイトル曲である「東京」はアレンジあっての名曲である。(大塚当人はどうやら気がついていないようで、繰り返し劣化コピーのセルフカバーを発売している)

メジャーという上げ底を外されて

インディーズに移ってからの惨状は書かない。追い打ちをかけるように喉を壊してしまい、先日2年ぶりのライブを行ったがパフォーマンスはアマチュアレベルまで下がっていた。なむなむ