架空の杜

The journey is the reward.

カーラ教授の復活!

 レナード現象には理由がある (ジェッツコミックス)
久々に川原泉の天才性が存分に満喫できる宝のように輝く一冊。もうすぐ「笑う大天使」が映画公開されるし、良いタイミングで改めて才能を誇示できる新作を出すことができたのは、長年のファンにとっても慶事である。

短編で才能10割増の異才

彼女の最盛期の短編作品はまさに珠玉の数々であり、当ブログ名の「架空の杜」も、何を隠そう(隠しちゃいないが)代表作の一つである「架空の森」から拝借したものである。とにかく短編で時としてみせる才能の絶対値は凄まじい。まぁ漫画界の芥川龍之介みたいなモンだな。ところが長編を描かせると途端に作品の魅力が落ちてしまう。だから「笑う大天使」とか「メイプル戦記」を代表作として喧伝されるのは個人的には非常に不満である。

分析不能な作品構造

表層的には「ヒロインが愛すべき愚者」「優れものだけど何かが欠落した男性(大抵年上)」のコミュニケーションを綺羅の舞台設定で描くというのは大きな特徴だけど、なんていうか川原泉に関しては設定上の特徴を列記する以上の作品分析が難しいのである。

愚者と愚者のファンタジー

概して女性漫画家は多かれ少なかれヒロインを愚かに描き、彼岸として(男性読者が共感できないような)超人的なところのある瑕疵のないヒーローを描く。しかし、川原の描く男性は表層的には愚かな主人公の超越者でありながら、実はより脆く愚かであるという構造が多い。愚かなヒロインに振り回されるうちに優秀美麗なヒーローが墓穴を掘るという作品構造の嚆矢となったのが川原作品である。最近では「のだめカンタービレ」とか類型作品はある。

迷走後に元のスタイルに

一連の短編の名作を発表後、白泉社川原泉に長編を依頼する。現実がどうだったかはわからないが、そこから迷走が始まった上に最終的に川原泉は疲れ果てて故郷の鹿児島県に戻ってしまう。そこから長いリハビリを経てやっと復活を感じさせたのが本作である。*1 開き直って自分のパターンを取り戻して往年の才気が戻ってきた。

そして更に進化が始まる

全四話中、最初の二話で往年のテイストを醸し出しておいて、ロリネタ・ゲイネタ!・・・やっぱり天才だなぁ(^^)

繰り返し楽しめる良さ

川原泉の良作は中毒性が高い。二次元の世界でもたまには違う空気を吸いたくなることもあろう、そういう人に是非お奨めしたい。

*1:ブレーメンⅡを褒める人がいるが、個人的にはどこが面白いのかさっぱりわからない