架空の杜

The journey is the reward.

ポール・マッカートニー

ポール・マッカートニー

ポール・マッカートニーのソロデビュー作。極めて粗雑なつくりのアルバムであり、一種の踏絵的な一枚である。アビーロードを作成し終えたあともポールだけはビートルズの存続に一縷の望みをかけていたが、1969年9月にジョンがビートルズとの決別宣言をしたために(この事実はビジネス上の理由により隠蔽された)傷心のポールはスコットランドの農場に引き篭もってしまった。そこで気晴らしとして4トラックの簡易なホームレコーディングを行った。収録曲の大半はそのようにして緊迫感を欠いて録音されたものである。比較的丁寧に録音されているのは、このアルバムを代表する“6.ジャンク12.恋することのもどかしさ”の2曲のみであり、あとは極めて弛緩した雰囲気の録音ばかりである。しかし、粗雑に録音された曲の中にも名曲は有り、“4.エヴリナイト”はその筆頭であろう。ホームレコーディングでありながらアットホームな感じはまるで無く、孤独孤立を背負った一人のミュージシャンの寂寞としたモノローグのようなアルバムである。結果的にこのアルバムを離縁状としてポールがビートルズ脱退を公式に表明したため、歴史的にはポールが脱退宣言をしたため解散が確定したことになってしまった。個人的には彼のソロキャリア中唯一の独特の“驕り”を感じさせないアルバムであり愛聴盤である。